市場調査 2023年12月27日10:35

【第105回(第4部21回)】インドシナ・マレー半島縦断鉄道構想/タイ中高速鉄道10 コーンケーン

タイ国鉄・東北部本線の基幹駅があるコーンケーンは、古くからの交易の要衝地。東に向かえばムクダーンからメコン川を越え、ラオスを横断してベトナム第3の都市ダナンにたどり着くことができる。一方、西に向かえばターク県メーソートから、東南アジアの大河サルウィン川の支流モエイ川を渡河。ミャンマー・モン州ミャワディから古都ペグーを経由して、最大都市ヤンゴンに至る。この東西道は近年になって東西経済回廊として注目され、そしてタイ中高速鉄道とも接続する。その中継地としての役割が期待されているのがコーンケーンなのである。連載の今号は、タイ中高速鉄道と東西経済回廊との関わりについて。

【第105回(第4部21回)】インドシナ・マレー半島縦断鉄道構想/タイ中高速鉄道10 コーンケーン

東西経済回廊はタイ国内だけでも約795キロ。コーンケーンで東西に区分すると、東端となるムクダハーンのタイ・ラオス第2友好橋までが約255キロ。北西端ターク県メーソートのタイ・ミャンマー友好橋までが約540キロとなる。この区間を一貫して走るのが国道12号線だ。この主要道の拡幅工事が2023年6月、280億バーツ(約1兆2000億円)をかけてようやく完了した。対面2車線の使い勝手の悪かった地方道が、全線4車線以上の高規格道路となった。一部区間では6車線に拡幅された。
 東端ムクダハーンにはムクダハーン経済特区があり、国内外から900社近くが進出している。総投資額は約16億バーツ。メコン川対岸のラオス中南部サワンナケート県にもサワンパーク経済特区があり、2008年にラオス初の経済特区として操業を始めた。同特区はベトナムからのアクセスも良く、ベトナム製造業の衛星工場としての役割も担う。コーンケーンでタイ中高速鉄道に積み替え、北部ラオスを経由、中国へ向かう陸上輸出が本格化するかもしれない。
 一方、西側タイ・メーソートとミャンマー・ミヤワディ間の国境貿易は、ミャンマーの主要な国際貿易路として機能。23年4月から10月までの7カ月間だけでも、タイとの間で総額約9億米ドルの輸出入があった。こちらもコーンケーンが経由地となって、中国・ミャンマー間の新しい交易路として役割を担っていく可能性は十分にある。これまで両国間の国境交易は、ミャンマー東北部シャン州ムセと雲南省瑞麗市を結ぶ交易路が中心だった。だが、10月下旬以降、同州一帯は少数民族武装勢力の支配下に置かれている。これが大きく影響するかもしれない。
 さらに、ミヤワディから西に約120キロ。モン州モーラミャインにも新たな経済特区構想が存在する。ミャンマーでは、ヤンゴン近郊のティラワ経済特区がすでに操業。西部ラカイン州のチャオピューと南部タニンダーリ管区のダウェーの2つの経済特区計画も進行しており、モーラミャインは国内4カ所目となる。後発だがその立地は優位とされており、注目度は高い。東西経済回廊を経てタイ国内でタイ中高速鉄道と接続するほか、高規格道路を使って一気にベトナム・ダナンの太平洋岸にアクセスすることもできるためだ。特区が臨む沖合では、インド洋に接続する深海港の建設構想もある。
 さらに、第86回~第90回の小連載「悲願のコーンケーン~ナコーンパノム」で詳報した新線の起点を北西部ターク県メーソートに置き、北部カムペンペット、同ナコーンサワン、そしてコーンケーンに至り、ナコーンパノムを結ぶ新線建設計画も19年ごろまではタイ政府内で検討されていた。総延長は約900キロに及び、文字通りの東西横断鉄道となるはずだった。その後、タイ中高速鉄道が優先されることになったため現時点では建設の目途は立ってはいないが、構想が雲散霧消したわけではない。その意味でも、コーンケーンは接続駅として重要な役割を果たすことになる。
 タイ国鉄は今後のタイ中高速鉄道第2期工事に合わせて、コーンケーンからノーンカーイ間約167キロの複線化事業も行っている。総事業費は約300億バーツ。同区間の8駅の改修を行うほか、6つの新駅の設置も決めている。コロナ禍で工事は遅れ気味だが、全区間の開通目標を27年中と置く。それに合わせて旅客や貨物の需要も、開通30年後には20~40%増すと読んでいる。
 コーンケーンには政府機関や大学などの研究機関、企業の支社・支店も多く、交通網の整備は地元産業界の悲願でもある。すでに、コーンケーン駅周辺区間では在来線の複線化と高架化の工事も終え、タイ中高速鉄道からのアクセス受け入れや駅舎の接続も視野に入れている。これらが牽引役となって、インドシナ・マレー半島縦断鉄道構想の全体像も形作られていくものと見られている。(つづく)

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