タイでコンビニエンスストアがお目見えしたのは今から35年前の1989年6月、セブンイレブンの1号店がそれだった。その後、日本からファミリーマートやローソンが相次いで出店。地場資本による新ブランドの誕生もあって、コンビニはすっかり定着したと言ってよい。その数、タイだけで全土に約2万店舗。ミャンマー国境などどんな山奥にも存在するのが特徴だ。うち、セブンだけで4分の3、圧倒的な市場占有率(シェア)を誇る。だが、必ずしも多店舗化にこだわらないとする見解も示されるなどこれまでにない動きもここに来て広がっている。タイのコンビニ戦争は新たなステージへ。

タイのコンビニ業界に衝撃が走ったのが、2023年5月のファミリーマートの撤退だ。進出当初は「タイ全土に2000店出店計画」を掲げていたが、ガリバーであるセブンを前に市場を切り崩せずにいた。撤退直前の店舗数はわずか400。当時すでに1万4000店舗を展開していたセブンを前に失望感も大きく、セブン一強時代の到来と受け止めた人も少なくないことだろう。
この時点で、セブンを除くタイ国内のコンビニ店舗数は、大手財閥TCCグループが運営するビッグCミニが約1400、
日本のローソンとタイ消費財大手サハ・グループとの合弁ローソン108が200弱、ファミマを引き継ぐことになるセントラル・グループ傘下のトップス・デイリーが約110といずれも多く及ばないでいた。英テスコから買収されたロータス・ゴー・フラッシュが約2000店舗あったが、運営するのはセブンと同じCPグループ傘下の卸売りチェーンCPエクストラ
(旧サイアム・マクロ)でライバルとは言い難かった。
こうしたセブン一強の体制に、挑もうとしているのが日本発のローソン108だった。ローソンは2013年3月にタイ進出。まだその頃はセブンの後を追い、
ファミマと同様に「5年で1000店舗」。17年ごろには「20年までに500店舗」と多店舗路線を明確にしていた。だが、5年経っても、10年が経とうとしても、首位セブンとの差は一向に縮まらない。こうした時に、ローソンが打ち出した新たな戦略が、「数より質」
「売上より利益」「タイ全国から首都圏へ」という選択と集中だった。
これに先駆けて、19年には首都圏を走る高架鉄道BTSの構内に出店。通勤通学客をターゲットとした。同じ文脈で、地下鉄、空港、病院といった公的施設への進出も加速させる。そして、流れを決定付けたのが24年9月12日にシーロムの商業施設に開業した旗艦店「ユナイテッド・センター店」だった。店舗面積は約200平方メートルと従来店に比べ格段の広さ。品揃えも日本産を主力とする。
「日本を感じる。日本を食べる」がコンセプト。来店客は一気に3倍に増加した。
もちろん、これがコンビニ戦国図にどう影響するのかは分からない。セブンも対抗策を講じるかもしれない。しかしながら、試みとしては注目に値するだろう。寡占状態とされて久しいコンビニ市場に新たな風穴が空くか注目だ。(つづく)