ビジネスニュース 2024年02月22日09:23

【第106回(第4部22回)】インドシナ・マレー半島縦断鉄道構想/タイ中高速鉄道11 ウドンターニー

タイ東北部イサーン地方の有力県コーンケーンを発った「タイ中高速鉄道」は、1時間も走行すると北隣にある同様の大規模県ウドンターニーに到着する。両県の県庁所在地は直線距離にして100キロ余り。いずれも人口150万人を越す大規模県だが、街の成り立ちや趣はやや異なる。18世紀に街の原型ができたコーンケーンに対し、ウドンターニーの都市が形作られたのは20世紀を迎えたころ。しかも、きっかけはこの地域への進出を図ろうとした欧州の植民地政策だった。さらに、1960年代にあってはベトナム戦争の前線基地として街はさらに発展を見せる。そして、21世紀。タイ中高速鉄道の全通を前に、ウドンターニーはラオス・ビエンチャンへの玄関口として新たな歴史を刻もうとしている。

【第106回(第4部22回)】インドシナ・マレー半島縦断鉄道構想/タイ中高速鉄道11 ウドンターニー

  県中心部から10キロ余り。在来線タイ国鉄東北部本線の沿線に、タイ工業団地公社(IEAT)が管理する東北初のグリーン工業団地「ウドンターニー工業団地」はある。自由貿易地域に指定され、整備も間もなく完成を迎える。一帯の面積は267ライ(約43万平方メートル)。すぐ近くを通ることになるタイ中高速鉄道はラオスの首都ビエンチャンで中老鉄路に接続され、中国雲南省へとひた走る。中国向け貨物の物流拠点として工業団地は機能を高めようとしている。

 機械や原材料の輸出入関税や付加価値税は免除。外国企業の土地の取得も可能とする計画だ。ホテルや会議場のほか、外国人技術者らが暮らすための住宅、医療施設、インターナショナルスクールも新設される。コンテナの荷捌き場や、鉄道駅に通じる幅6メートルの鉄筋コンクリート道路も整備されることになっている。

 地の利も抜群だ。真東に進めば、サコーンナコン、ナコーンパノム両県を経て、大河メコン川を渡河しラオス・ターケークへ(ウドンターニーから全長約252キロ)。南東に舵を取れば、連載の前回に詳報したムクダハーンからラオス・サワンナケートを経て(同278キロ)、ベトナム・ダナンに通じることができる。さらに北西に向かえば、チェンライ県のファイサーイを経て(同638キロ)、ラオス・ルアンナムターへと到達ができる。

 さらに注目されているのが、間もなく完成することになる東北部ブンカーン県とラオス中部ボリカムサイ県パクサンとを結ぶ「タイ・ラオス第5友好橋」にアクセス可能な国道の建設だ。仮称ウドンターニー・ブンカーン道路と呼ばれるそれは、大型トラックの走行を想定する4車線の全長155キロ。既存の国道などを使って220キロ超、3時間はかかっていた従来の時間距離を半分以下の1時間20分程度に短縮する。総工費は約200億バーツ(約850億円)。5668ライの土地収用を見込む。2028年中の開通を目指している。

 18世紀末にラオス・ビエンチャンからの王族の移民らが入植して誕生したコーンケーンに対し、ウドンターニーは19世紀末にフランスとの間で戦争に発展した「シャム危機」が街建設の発端だ。メコン川右岸の割譲を求めてきたフランスに対し、タイ政府は強く抵抗。当時、ノーンカーイにあった政府機関をこの地に移転して新たな街ウドンターニーが誕生した。旧名はラーオプアンといった。
 1941年にはバンコクからの鉄道が開通し、首都との人とモノの往来も盛んとなった。大きな転機は60年代になってから。時速100キロ走行が可能な高規格道路ミットラパープ路(国道2号線)が完成すると、当地は米軍によるベトナム戦争の中継基地として機能をし始め、急成長が始まった。この地方の国際力を高めるきっかけともなった。

 以来、ウドンターニーはタイから北方方面に国境を超える際の陸と空の玄関口として機能することになる。この地に大規模な病院や商業施設、研究機関が多いのもそのためだ。反対に、ラオスやその先のベトナムからは留学・就労先として有力な候補地の一つともなっている。570キロもあるバンコクまでは遠すぎる。ならば、設備施設の整ったこの地で、と考える人も少なくない。海外に唯一あるベトナム人コミュニティー「ベトナム・タウン」がウドンターニーにあるのも無縁ではないだろう。内陸メコンの中継地として機能・発展し続けている。

 ラーマ5世(チュラーロンコーン大王)が推し進めたチャックリー改革の一環としても建設が進められたウドンターニーは、その新しさ故に都市計画によって練られた美しい街としても知られる。市内には市民の憩いの場ともなる2つの大規模公園。碁盤の目状の道路と環状道路は有効に接続し、渋滞もひどくない。そして今、中老鉄路につながるタイ中高速鉄道の物流拠点として、新たな歩みを始めようとしている。(つづく)

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