今年1月22日のことだ。タイの首都バンコクで、首都庁が管轄する公立学校100校以上が一斉に休校となるという出来事があった。微小粒子状物質「PM2.5」の濃度が高くなり、健康に影響が出ると判断されたためだ。乾期に入ったタイでは雨が極端に少なくなり、上空には汚れた空気が滞留するようになっている。汚染の原因はさまざまで、首都圏などの都市部では自動車の排気ガスや工場などからの煤煙が、東北部などの農村部ではピークを迎えたサトウキビ収穫後の野焼きの煙が挙げられている。汚染は近隣国でも確認され、ベトナムでは増えすぎた二輪車からの排気ガスが世界最悪を記録するまでとなった。似たような現象は他国にも広がる。PM2.5の悪夢再び。各国の取り組みを追う。

タイの気象観測を続けている地理情報・宇宙技術開発機関によると、バンコクの公立学校が一斉に休校となった前日の21日、77ある都県のうち実に70都県でPM2.5の濃度が国の安全基準(1立方メートル当たり37.5マイクログラム=μg以下)を上回った。5段階で最も深刻な「健康に影響を及ぼすレベル」とされたのはバンコク(125μg)のほか西部サムットサーコーン県(145μg)、中部ノンタブリー県(116μg)など27都県。残る43県で「敏感な人の健康に影響を及ぼすレベル」と判断された。
汚染の原因は地域によっても異なるが、都市部と農村部で大きく二分される。都市化が進んだ首都圏では、トラックなどが走行する際に排出される排気ガスや巻き上げられる粉塵、それに建設現場や工場、発電所などから飛散する塵や埃、煤煙といったものが主なところ。一方、農村では12月から始まったサトウキビの収穫が最盛期を迎えており、刈り取り後に残る廃棄物を燃やした時に発生する煙などが挙げられている。
このため政府とバンコク都などでは、6輪以上の大型車両に対し排ガス基準を満たすよう促し、登録を済ませない車両については通行を制限するなどの措置を始めている。農村では、野焼きを全廃させる方針を固め、そのための補助金支給も行っている。野焼き行為を隠蔽した農家や農業法人に対しては罰金を科し、悪質と判断した場合には実名公表も行うことにしている。協力的な農家に対しては人工知能(AI)を活用した生産効率化支援も実施する。
一方、タイと並ぶ工業化が進むベトナム。ここでの最大の大気汚染の原因は、人口にも匹敵しようかという二輪車から排出される排気ガスだ。ベトナム運輸省によると、全国で登録されている二輪車は23年末で約7300万台。このうち4500万台が日常的に稼働している。人口1億人のベトナムの2人に1人が毎日頻繁に二輪車に乗り、排気ガスを放出させている計算となる。
こうした事態を受け、運輸省は二輪車の排ガス検査を義務化することにした。製造から5年以上の二輪車については1~2年毎に検査を行い、不合格車は運行させない。こうした取り組みで、世界最悪の空気環境から脱出を試みる意向だ。同様の取り組みは、マレーシアやシンガポールでも行われている。(つづく)