かつては麻薬撲滅運動を展開したこともあるタクシン派政権の復活に伴って行方が注目されていたタイの大麻解禁問題は、タクシン氏の次女ペートンタン氏の新首相就任によって麻薬としての再指定ではなく、新たに大麻管理法を成立させその下で管理していく方向が濃厚となった。大麻解禁を進め再指定に批判的だったタイ名誉党(プームジャイタイ党)党首のアヌティン副首相兼内相との間で合意がなされたもようだ。その中でペートンタン氏は、タイ貢献党が主張してきたガジノを併設した複合娯楽施設の建設計画を名誉党が認める代わりに、管理法の導入を受け入れるとした。これにより、タイの大麻問題は新法の下で利用法などが細かく規定され、現存する店舗の多くは存続される見通しとなった。
大麻解禁は、2019年3月の下院総選挙で議席を伸ばした名誉党の看板政策。表向きは所得の少ない地方の農民を救済するため、利幅の大きい大麻栽培を活用し生活を向上させることを目的としていた。だが、21年から徐々に始まった規制緩和以降は、大手資本などの参入が相次ぐようになり、一大利権産業に。政財界に流れる黒い金の噂もしきりと聞かれるようになった。中毒患者も増え、青少年や妊婦などへの悪影響も懸念された。再規制を求める声が上がるようになっていた。
転機となったのは、23年5月に行われた下院総選挙だ。第2党となった貢献党を中心としたセター政権が発足。保健相のポストを同党が確保すると、次第に再規制への下地が敷かれるようになっていった。今年4月にはセター首相自らがメディアへのインタビューに対し、大麻解禁が経済に悪影響を与えたと発言。麻薬としての再指定路線が濃厚となり、保健省が25年1月からの再指定を表明していた。これに対し、アヌティン副首相や有力業界団体タイ・カナビス・フューチャーなどは猛反対。新法による管理への移行を求めたが、世論の後押しもあって決定打は打てずにいた。
こうした流れを大きく変えたのが、8月半ばの憲法裁によるセター首相の失職判決だ。過去に刑事責任を問われた人物を閣僚に指名したことが憲法に抵触するとされた。判決は予想されなかったことから、後任にはタクシン派のペートンタン氏が急きょ担ぎ出され、これを機に名誉党の猛反撃が始まった。最終的に、貢献党の看板政策であるカジノ建設と大麻管理法導入がバーター取引され、大麻解禁は事実上継続されることとなった。
新法は「規制法」ではなく、「管理法」となる見通しだ。ペートンタン首相は「医療分野」での利用を促進するとはしているが業界関係者によれば民間において線引きは曖昧で、多少の規制はあるものの結局は「医療」の名の下に既存店舗の営業は継続される可能性が高いという。新法となれば予算措置も講じられ、研究開発や産業振興が今以上に進むことも予想される。政府内部を二分ほどだった対立は新政権発足を機に収束。新展開を迎えようとしている。(つづく)