ビジネスニュース 2024年08月28日15:37

【第109回(第4部25回)】インドシナ・マレー半島縦断鉄道構想/タイ中高速鉄道14 中老鉄路接続

東北部ノーンカーイからメコン川を渡河し、ラオスの中老鉄路との接続が見込まれる「タイ中高速鉄道」。タイ国鉄にはもう一つ、2009年に開通させた在来線の国際列車タイ・ラオス架橋線がある。その延伸区間が7月19日開業した。これまでのターナーレーンに代わり、出入国管理局が置かれた新終着駅のカムサワート駅では盛大なセレモニーが開かれ、大いに沸いた。しかし、背後にはこの地の物流権益をめぐるタイと中国との駆け引きも見え隠れする。間に挟まれたラオスも分け前を得ようと虎視眈々と照準を定める。

【第109回(第4部25回)】インドシナ・マレー半島縦断鉄道構想/タイ中高速鉄道14 中老鉄路接続

在来線のタイ・ラオス架橋線を7.5キロ延長して作られたカムサワート新駅。ところが、建設したタイ国鉄は公式には同駅を「ビエンチャン駅」と呼び、後に続くカッコの中で「カムサワート」と標記しているに過ぎない。広報担当者は「新駅はラオスの首都ビエンチャンにあるのだから、そう呼ぶことに問題ない。カムサワートの名を知らない人も少なくない」と説明する。
 ところが、中国が建設した21年12月開通の中老鉄路(ラオス中国鉄道)も始発駅名は「ビエンチャン」。混乱もありそうだが、タイ中両国とも表向きは問題視しようとする様子はなく、静観を貫いている。その狭間で、ラオスでは中老鉄路のビエンチャン駅を「Lao-China railway Station」と呼び、タイ・ラオス架橋線のカムサワート駅を「Lao-Thai railway Station」と使い分けして、混乱が起きないようにしている。
 両駅は約10キロ離れ、徒歩では移動できない。公共交通機関もこれまで一切なかった。個人による自家用車を使った白タクシーも運行しているが、観光客だと分かると足元を見るのが日常茶飯事。50万キープ(約4100円)以上を請求されるケースさえある。どんなに高くても、せいぜい半額も払えば十分だ。
 そこでラオス政府が打ち出したのが、両駅を結ぶシャトルバスの導入だった。ビエンチャン市街地にある中央バスセンター(CBS)を出発し、カムサワート駅、中老鉄路ビエンチャン駅を経由して同センターに戻る巡回バスをダイヤに合わせて毎日3便以上運行している。また、バスセンターとそれぞれの両駅とを結ぶ直行バスも1日あたり複数便が走行している。運賃はいずれも大人一人一乗車当たり2~3万キープ。10キロ離れた不便さを、たくましくラオス自らの収益につなげようとしている。
 標準軌(1435ミリメートル)の高速鉄道を一刻も早くタイ側のタイ中高速鉄道に接続させるのが中国の真意だ。だが、これまでも指摘したようにタイは是々非々で対応に当たっている。タイ中高速鉄道を当初の計画から変更し、時速250キロメートルの旅客専用にしようという構想もその一つ。中国としては現代版シルクロード「一帯一路」に直接影響を与えるだけに、旅客専用への変更はとても飲めるものではない。しかし、タイ側は煙に巻くばかりで真意を語ろうとはしない。
 その一方で、タイ政府はタイ・ラオス架橋線を盛んに貨物輸送に活用しようともしている。2023年12月には接続する物流拠点ターナーレーン・ドライポートで荷の積み替えを行い、国内の在来線、タイ・ラオス架橋線、中老鉄路を経由した中国の成都・重慶向けの貨物輸送を開始した。また今年6月には、ドリアンが積載されたマレーシア発の貨物列車をバンコクのコンテナ港ラッカバーン内陸港とターナーレーン・ドライポートで積み替えさせ、重慶に送り届ける物流にも関与している。巨大市場中国との関係は切れないものの、主導するのはあくまでタイという意図が透けて見える。
 中国も、タイ中高速鉄道の接続ばかりを優先しては遅れを取ることは分かっている。22年6月には、中老鉄路の貨物駅ビエンチャン南駅から南に2.8キロ延伸してターナーレーン・ドライポートに乗り入れる工事を完工。タイ側からの貨物を受け入れている。同ドライポートでの積み替えは、すでに無視できないほど存在感が高まっている。
 こうした中で、タイ側が新たにナコーンラーチャシーマー県に東北地方(イサーン地方)を統括する新たな積み替え拠点「東北ドライポート」を設置する意向であることが明らかになった。同県は、鉄道や高速道路沿いに南西に進めばバンコクまで300キロ。南に350キロで貿易港のラヨーン港。さらには、ミャンマー・ヤンゴンとベトナム・ダナンを結ぶ東西経済回廊にも近い交通至便の地。ここに、中国も関与がしにくい一大コンテナ施設を建設しようという目論見だ。すでに運輸省とタイ港湾公団が具体的な検討に入っており、タイと中国との物流権益をめぐる争いはますます広がる気配だ。
 次回からは、タイ中高速鉄道との接続が確実視される中老鉄路を取り上げる。(つづく)

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