ラオスの首都ビエンチャンと中国国境ボーテンを結ぶ全長約420キロの「中老鉄路」。同国初の高速鉄道は2021年12月に全線開業。それから3年余りが経過し、旅客貨物の利用ともども安定的に推移している。中でもタイからラオス、さらには中国へ向かう貨物列車は1日あたり4~6便が運行されるようになっており、従来ならば1週間前後も要していた所要時間が1日半程度と大幅に短縮。タイ・ラオス間の国境貿易も鉄道を中心に25年中に110億米ドル(約1兆6000億円)まで膨らむ見通しだ。高速鉄道の建設、そして物流の発展を契機に後発後進国からの脱却が進むのか。ラオスは今、転換の最中にいる。連載の今回は、始発駅ビエンチャンから避暑地バンビエンまでの区間を概観する。

中老鉄路の運営会社「ラオス・中国鉄道会社(LCRC)」によると、24年1月から10月までの中老鉄路の利用客は総計約300万人。前年同期比約45%増の驚異的な伸びとなった。このうち、中国からの越境観光客らは10万人強にとどまり、290万人弱がラオス人による国内利用だった。開業前は、「債務の罠」「借金漬け」「誰が乗るのか」などと散々の言われようだったが、蓋を開けてみればラオスの人々が積極的に利用していることがよく分かる。
貨物輸送も着実に増えており、24年はタイ産果物の中国向け輸出が急拡大。中老鉄路を使った果物輸送は前年比2倍を超える増加と急伸した。特に、果物の王様とされるドリアンは中国人消費者からひっぱりだこで、タイ商務省によると昨年一年間の輸出総量は20万トン近くに上ったと見られている。貨物駅であるビエンチャン南駅から出発した貨物列車は29時間で雲南省昆明に到着。国境での通関時間も5時間以下と大幅短縮が実現した。
中国からの冷蔵貨物列車を使った野菜や果物の輸出も本格化している。昨年8月には雲南省玉渓市からビエンチャンに中国産野菜400トンが出荷され、新鮮なまま市場に流通した。これを契機に、雲南省は年間5万トンを超える野菜や果物の輸出を促進していく考え。中国国内の地域経済の活性化にも中老鉄路は大きく貢献をしている。
ラオス政府としては、中国からの観光客誘致もさらに進めていく考えだ。中国メディアによると、昨年の中国の大型連休である国慶節連休(10月01日から1週間)で中老鉄路を利用して出入国した人は総計約6400人。コロナ禍の余韻がまだ残っていた前年に比べて2.6倍となったものの、この先の伸び代は大きいとみている。政府は23年に延べ約60万人だった中国人観光客を25年には100万人台の大台に乗せたいと目論む。そのための観光キャンペーンやビザ
(査証)なし入国を強化していく考えだ。
記者(筆者)が乗車した中老鉄路の各駅停車K12便は定刻通りにビエンチャン駅を出発すると、次第に速度を上げていった。滑らかな加速、乗り心地は日本の新幹線と遜色ない。2等席の4号車は、通路を挟んで片側2席と反対側3席のボックスタイプ。乗車券の購入窓口であてがわれた座席は3人席の窓側。それでも出入口すぐのA列だったため、通行しやすいようそこだけ2人席となっていた。
ところが、記者が座るはずの席にはラオス人らしい中年女性が。「もしもし」と声をかけるも、イヤホンをして目を閉じており聞こえないよう(振りかも)。仕方なくその隣に腰掛けたが、女性はガッチリと身体が大きく、座席カバーの大半をその巨大な尻の下に巻き込んでいた。どうしようもなく、生地がむき出しの椅子に座るしかなかった。
始発駅ビエンチャンを発ち、K12便は39分で最初の停車駅ポーンホーンに止まった。ビエンチャン県ポーンホーン郡にあるこの街は、かつては県庁所在地が置かれたことがあるものの現在は人口3万人余りの小さな地方都市。宿も含めさしたる産業はないが、わずかに林業だけは今でも細々と続いている。かつての植民地宗主国フランスは、こうしたラオスの森から良質な巨木を繰り返し強奪し、本国に輸送していた。
ポーンホーン駅には毎日、ボーテンまでの各駅停車1往復とルアンパバーンまでの快速列車1往復の上下2便が停車する。停車時刻には7~8時間の開きがあるため、当駅で下車し散策した後に後から来る列車に乗車することも可能だ。ちょっとしたピクニックぐらいなら楽しむことができる。ただし、売店やレストランはほぼ期待ができない。
列車はいよいよバンビエンに到着する。ビエンチャンを出発して1時間20分余り。予定通り午前10時31分に1番線に滑り込んだ。扉が開く。鮮やかな青色のユニフォーム姿の乗員が降車口に立ち、乗降客を迎える。人の波の次には、当駅までの物資が次々と降ろされていた。ここまでの運賃は1人12万3000キープ(約870円)。個人的には3回目となる避暑地バンビエン。中老鉄路の開通によってどのように変わったのか。早く街が見たくて、ウズウズした。(つづく)